英国靴の聖地、ノーザンプトンにおいて最古の歴史を誇るトリッカーズ(Tricker’s)。その中でも、ブランドの顔として君臨するのが「バートン(Bourton)」です。
これまでの記事で紹介してきたドレス寄りの靴とは一線を画す、無骨で剛健なカントリーシューズ。今回は、筆者がこの靴を愛してやまない理由とともに、その歴史や独特の履き心地について深掘りします。
1. 英国最古のシューメーカー、トリッカーズの歴史
1829年創業のトリッカーズは、ノーザンプトンに現存するメーカーの中で最も長い歴史を誇ります。 効率化のために工程を分業化するメーカーが多い中、トリッカーズは今なお、伝統的な「グッドイヤーウェルト製法」を頑なに守り続けています。
その信頼性は折り紙付きで、チャールズ国王が皇太子時代から愛用していることでも知られ、ロイヤルワラント(英国王室御用達)を授かっています。王室がカントリーサイドでの休暇や狩猟の際にこの靴を選ぶ事実は、バートンが単なる装飾品ではなく、過酷な環境で真価を発揮する「実用的な道具」であることを物語っています。
2. デザインのすべてに「機能的理由」がある
バートンの特徴的な意匠であるフルブローグ(穴飾り)。一見すると華やかな装飾に見えますが、これにはカントリーシューズならではの機能的なルーツがあります。
- ブローギング(穴飾り): もともとは、湿地帯を歩く際に靴の中に入り込んだ水を排出しやすくし、濡れても乾きやすくするための「排水孔」がその始まりです。
- ストームウェルト: アッパーとソールの境目にある「山」状の革を指します。これは、雨や泥が靴の内部に侵入するのを物理的に防ぐための堅牢な設計です。
こうした「機能から生まれた形」が、現代の街歩きにおいても独特の力強さと安心感を与えてくれます。
3. 失敗しないサイズ選び:ラスト「4444」の個性
バートンを検討する際、最も慎重になるべきがサイズ選びです。専用の木型である「ラスト4444」は、他の英国靴とは異なる独特のフィッティングを持っています。
このラストは、カントリーサイドで厚手のウールソックスを履くことを想定しているため、幅が広く甲も高く設計されています。 筆者の経験上、一般的な英国靴のサイズよりもハーフサイズ、あるいは1サイズ下げてジャストになるケースが多いです。「いつも通り」のサイズを選んでしまうと、踵が浮いてしまう可能性があるため、初めて手にする際は慎重な試着、あるいはサイズ交換が可能な環境での購入をお勧めします。

艶やかな一足
4. 「修行」の先に待つ、至福のエイジングと履き心地
トリッカーズを履き始める際、多くの愛好家が経験するのが「ソールの硬さ」です。 分厚いダブルソールと堅牢なレザーの組み合わせは、履き始めはまるで「板の上を歩いている」ような感覚かもしれません。
しかし、この「修行」とも呼ばれる期間を耐え抜いた先に、バートンの本領が待っています。 数ヶ月履き込むことで、中底に敷き詰められた厚いコルクが自分の足の形に合わせて沈み込みます。ソールに「返り」が生まれる頃には、最初からは想像もつかないほど足に馴染み、自分専用の快適な一足へと変化します。この劇的なエイジング過程こそ、トリッカーズを育てる最大の醍醐味です。
5. まとめ:10年後、20年後も頼れる相棒
筆者にとってバートンは、傷や汚れを気にせずガシガシ履き、手入れを繰り返しながら育てていく「一生モノの道具」です。
休日に履くべき靴については別記事にて紹介しましたが、。このバートンはデニムや軍パンといったカジュアルな装いをクラスアップさせてくれるだけでなく、天候を問わず履き出せるタフさがあり、10年、20年と時を経て、革がさらに深い味わいを帯びていく。バートンは、その長い年月を共にする価値が十分にある一足だと確信しています。



