「一生モノ」という言葉が、これほど似合う靴も他にないでしょう。 1884年にアメリカ・マサチューセッツ州で産声を上げたAlden(オールデン)。
効率化が優先される現代において、なぜこの無骨なアメリカ靴が、これほどまでに私たちの心を捉えて離さないのか。筆者が「一生モノ」を想像しながら揃えてきた7足の記録と共に、その背景を整理してみたいと思います。
1. Aldenの成り立ちと、日本での受容
Aldenの凄みは、独自の進化を遂げた「歩行性能」と「素材」へのこだわりにあります。
矯正靴としてのルーツ
創業当初からAldenが追求したのは「歩きやすさ」でした。特に1950年代に展開した、足にトラブルを抱える人のためのオーソペディックシューズ(矯正靴)の分野での功績は多大です。この経験から生まれた「モディファイドラスト」をはじめとする木型は、解剖学的な見地から設計されており、単なるファッションを超えた「道具としての機能美」を備えています。
コードバンという文化を守る
かつて、管理が難しくコストもかかる「シェルコードバン」は、多くのメーカーから敬遠されていました。しかしAldenは、その希少な素材の価値を信じ、名門タンナー・ホーウィン社を支え続けてきました。私たちが今、コードバン特有の鈍い光沢や、大きく波打つような独特の皺を楽しめるのは、Aldenがその文化を絶やさなかったおかげと言えます。
2. 筆者が手にしてきた「7足のマスターピース」
筆者が一足ずつ、背伸びをしながら手に入れてきた革靴たちを紹介します。それぞれが異なる歴史と、独自の役割を持っています。
① 990(ダークバーガンディ・プレーントゥ)
「キング・オブ・オールデン」。ブランドを象徴するNo.8カラーのコードバンと、ゆったりとしたバリーラストの組み合わせ。装飾を削ぎ落とした一枚革だからこそ、コードバンのうねるような皺が最もダイレクトに現れます。
② 9901(ブラック・プレーントゥ)
990と双璧をなす、ブラックコードバンの傑作。鈍く光る黒のコードバンは、どんな装いにもアジャストします。
[関連記事:オールデン 9901 レビュー|サイズ選びの妥協が生んだ「痛みの教訓」と、それでも手放せないブラックコードバンの魔力]
③ 54321(Vチップ・バーガンディ)
「Aldenの魂」とも言えるモディファイドラストを採用。絞り込まれた土踏まず、解放された指先。歩くたびに土踏まずを押し上げるようなフィット感は、一度味わうと逃れられない中毒性があります。
④ 99361(ブラックコードバン・ローファー)
バンラスト(Van Last)がもたらす、アメリカントラッドの象徴。踵を浮かさないためのタイトな設計ゆえ、馴染むまでは「修行」の時間が続きます。しかし、その先に待つ吸い付くようなフィット感は格別です。
⑤ 1339(バーガンディ・チャッカブーツ)
2枚の大判なコードバンを贅沢に使用した、Aldenの冬の顔。プレーンな面が広いため、コードバンのエイジングを最もドラマチックに味わえる、贅沢なモデルです。
⑥ 404(クドゥー・タンカーブーツ)
野生動物の傷跡をそのまま残したクドゥーレザー(Kudu)を採用。タンカーラストのボリューム感と、雨の日でも怯まず履ける堅牢さ。コードバンとはまた別の、最強の実用靴です。
⑦ 4545H(ブラックコードバン・タンカーブーツ)
ミリタリーラスト(379X)を採用した、軍用靴の系譜。ブーツでありながらコードバンの気品を併せ持ち、ジーンズをロールアップして合わせた時の完成度は唯一無二です。
3. なぜ、「一生モノ」 になり得るのか
Aldenを信じている理由は、その「修復のしやすさ」と「馴染み」にあります。
厚手のコルクが詰まった中底は、数年かけて自分の足裏の形に沈み込み、世界に一つだけのフィット感を生み出します。また、グッドイヤーウェルト製法により、ソールを張り替えながら半永久的に履き続けることが可能です。
[ヴィンテージスチールでの補強]や、[日々のブラッシング]といった手入れは、その旅を支えるためのささやかな、しかし大切な準備です。
4. 終わりのない、Aldenという不思議な魅力
Aldenには不思議な魔力があります。 「これで最後だ」と自分に言い聞かせているものの、ふと気づくと別のラストや革質に目が向いてしまう。
一足一足に異なる物語があり、それぞれの木型に異なる哲学がある。そんな奥深さが、ついつい私たちを新しい一足へと向かわせてしまうのかもしれません。
30年後、皺だらけになったこれらの靴を眺めながら、自分が歩んできた道を振り返る。 そんな未来を想像しながら、明日もまた、お気に入りの一足に足を通そうと思います。















